音声マーケティングの基本:声の心理がもたらす効果とは?

近年、「radiko」や「Voicy」「Spotify」「X(旧Twitter)Space」など、音声配信サービスの利用が急増していて、デバイスの普及や生活様式の変化に伴い、“聴く”メディアへの注目度が急速に高まり、音声広告市場も拡大しています。

これまで、企業やブランドがラジオや店頭BGMなどで「音」を活用する事例はありましたが、現在は音声配信サービスを活用した新しいマーケティング手法が登場し、より多彩なアプローチが可能になっていると言われています。

今回は、「音声マーケティング」とは何か?という基本的な概要から、注目される背景や事例、そして「声」という存在が持つ心理的な側面についてまとめてみます。


音声マーケティングが注目される背景

コロナ禍における在宅時間の増加や、スマートフォン・ワイヤレスイヤホン・スマートスピーカーといったデバイスの普及により、音声コンテンツを“ながら聴き”する環境が整いました。

  • radikoの月間利用者数は2020年3月に急増
  • Voicyの月間視聴者数は2021年からの3ヶ月で2.5倍に増加し、2021年3月時点で250万MAUを達成

こうした利用者数の伸びにあわせて「音声広告」の市場規模も拡大しており、2025年には約420億円規模に成長すると期待されています。

コロナ禍をきっかけに、在宅勤務や家事の時間に「誰かの声を聴きたい」というニーズが高まりました。

  • 在宅勤務中にも作業しながら音声コンテンツを聴く
  • 一人でいる時間が増え、会話のような音声に癒しを感じる

これらの理由から、ラジオやPodcastなどをBGM感覚で聴く層が大きく増えているそうです。


なぜ「音声」が効果的なのか?
〜視覚との比較〜

マーケティング手法といえば、テレビやSNSなど視覚に訴求する広告が主流でした。一方で、「音声」には視覚にはない大きなメリットがあります。

音が脳へ伝わるまでにかかる時間は、視覚の約半分ほどと言われており、瞬発力が求められるスポーツなどでも「音」が重要視されるのは、この反応速度の早さに理由があると言われています。

さらに、音声コンテンツの最大の強みは、“聴きながら他の作業を同時並行できる”という点です。

  • 出勤や通学の移動中
  • 家事をしながら
  • 運動をしながら

上記のような「視覚」を奪われる場面でも「耳」なら自然にメッセージを届けられるため、一般的な日本人が1週間に“ながら聴き”できる時間は、“目”のメディアに割かれる時間の3倍ほどになるという試算もあるほどです。

人の声やメロディーは記憶に残りやすい特徴があり、映像だけでは印象づけにくいニュアンスも、声のトーンや音楽の雰囲気によって補完できる点が、音声ならではの強みと言えると思います。


日本人の84%が自分の声を嫌う?
〜「声」と心理の深い関係〜

音声マーケティングを考えるうえで見落とせないのが、私たちが“声”という存在に抱いている心理的な側面で、AERA dot.(2025年2月10日号)の特集によると、日本人の84%が「自分の声が嫌い」と感じているという調査結果が紹介されています。
(Yahoo!ニュース2025/2/8掲載)

声は心理や体調を“鏡”のように反映し、生々しく自分自身を映し出します。
そのため、自分の声を嫌うことは、しばしば自己肯定意識を低下させる原因にもなるようで、さらに本来の声ではなく「作り声」で話そうとすると、脳が「これは自分の声と違う」とストレスを感じてしまいます。

また、日本人女性の声の高さは世界水準(成人女性200〜220Hz)と比べて、300〜350Hzというかなり高い領域で話す方が多いと言われており、これは社会的に「幼い」「かわいい」といったイメージが女性に求められ、それを無意識に感じとって声を作っている可能性があるとも指摘されています。

声には本音が出やすく、過度な“作り声”はストレスを生みやすいという見方もあり、クレーム対応など業務上ずっと感情を抑え続ける仕事に就いている方が心身の不調をきたす例もあり、「声を作る=自分を偽る」状態が長く続くことが精神的負荷になるとのことです。

ビジネスの場では、多少の“演出”や“社交術”として声を変化させること自体は自然なことですが、長時間にわたって無理をするのは心身に負担をかける可能性があるため、音声マーケティングにおいても、「自然さ」や「本人らしさ」を活かす声選びがリスナーとの信頼関係を築くうえで大切だと考えます。


音声マーケティングとは?

音声マーケティングとは、人の声や音楽など「音」で構成されたコンテンツを活用し、聴覚を通じてユーザーの意識や行動変容を狙うマーケティング手法のことです。

  • ラジオCMや店内放送などで音声を流す
  • 音声配信プラットフォームを活用して商品・サービスの魅力を紹介する
  • サウンドロゴ(企業やブランドを象徴するフレーズやジングル)で認知を広げる

音声配信サービスが多様化した今だからこそ、企業やブランドは「声」や「音」を活かして消費者と新たな接点を築く機会が広がっています。


音声マーケティングの
3つの主な効果

音声マーケティングには、主に以下のような効果が期待できます。

認知獲得・興味喚起
ながら時間を活用することで、これまで接点を持ちにくかったシーンにも訴求が可能になり、視覚に限定されない新しいタッチポイントを獲得できる大きなメリットがあります。

ブランドの識別性向上・選好性の獲得
サウンドロゴや印象的なBGMを利用することで、「耳で聴いた瞬間にブランドを思い出してもらう」状態を作りやすくなり、商品選択の際に「あの音声広告で聴いたブランドだ」と想起してもらえれば、購買につながる可能性が高まります。

売上やブランド好意度の向上
特定のインフルエンサーや著名人を起用したり、ストーリー性のある音声コンテンツを用意することで、売上アップやブランド好意度の向上が期待できるので、ファンやリスナーにとって、好感度の高い声や語り口は情報を受け取りやすいと言われています。


音声マーケティングを行う際のポイント

目的とターゲットを明確にする
音声マーケティングを導入する際は、まず「何を達成したいか」(認知拡大・購入意欲向上・ブランドイメージアップなど)を定め、その上でどの層に聴いてもらいたいかを明確にすると、コンテンツの方向性がブレにくくなります。

適切なプラットフォームを選定する
ラジオや店頭放送、Spotify、Voicy、Podcastなどの配信プラットフォーム、SNSのSpace機能(XやClubhouse)など、それぞれユーザー層や配信の仕組みが異なり、自社の商品・サービスやターゲットに合ったプラットフォームを検討することが必要です。

「声」のキャスティングと演出
声に関する心理的要素(自分の声へのコンプレックスや、社会的な“声のイメージ”など)も考慮し、「自然さ」や「本人らしさ」を活かす声選びが大切だと考えます。
音声配信では声そのものが「ブランドの顔」になるため、“高い声”や“作り声”が必ずしも好影響とは限らず、ターゲットが共感しやすい声質・トーンを意識します。

コンテンツ制作の質を高める
声の魅力やBGMの選定が、音声コンテンツの印象を大きく左右するため、声優やインフルエンサーを起用する場合は、その人のファン層や声質を踏まえて企画を立てると効果的で、さらにストーリー性をもたせることで、よりユーザーの興味を引きやすくなります。

データ分析と効果測定
音声マーケティングは「再生回数」や「聴取完了率」など、デジタルで詳細なデータを取得できるのも強みで、広告配信の場合は「広告認知度」「購入意欲の変化」などのブランドリフト調査を行い、効果測定→改善を繰り返すことで最適化を図ります。


今や音声マーケティングは、企業にとって新たな“必須チャネル”へと成長しつつあるので、テレビやSNSと併用して、消費者の日常の多様なシーンに入り込むことで、より強いブランド体験を生み出せると考えます。


参考記事
AERA dot.(2025年2月10日号)「日本人の84%は『自分の声が嫌い』 女性は世界水準より『高い声』が意味することとは」(Yahoo!ニュース2/8掲載)

https://www.tribalmedia.co.jp/note/music-marketing-210624/