「キャンセルカルチャー」という言葉をご存知ですか?
SNSが日常となった今、企業や個人の一つの言動が、瞬時に大きな波紋を広げる時代となりました。
近年、日本でも東京オリンピックの開会式音楽担当者の降板や、大手企業への不買運動など、その影響は確実に広がっています。
キャンセルカルチャーは、マーケティングに携わる人々にとって、見過ごせない課題となっています。
今回はキャンセルカルチャーについてまとめます。
キャンセルカルチャーとは
キャンセルカルチャー(Cancel Culture)とは、特定の人物・企業・サービスなどが過去または現在の不適切な発言・行動・価値観で批判を受け、その存在を「キャンセル(使わない・見ない・関わらない)」していこうとする社会的な動きのことです。
SNSやネット上のコミュニティで拡散されやすく、問題行動が判明すると一気に「ボイコット運動」や「不買運動」に発展するケースも少なくありません。
キャンセルカルチャーが生まれた背景
SNSの急速な普及
Twitter、Instagram、TikTokなどを通じて、誰もが簡単に情報を発信できるようになりました。
過去の発言や行動も掘り起こされて拡散されるため、不適切な言動があれば一夜にして大炎上する可能性があります。
社会的正義や倫理観の高まり
世界的な人権意識の高まりやSDGsの普及も追い風となり、多様性や倫理観に反する行為への反発が強まっています。
差別的な発言や行動が確認されると、SNSを通じて猛批判のうねりが起こりやすくなりました。
キャンセルカルチャーの両面性
キャンセルカルチャーは、社会に大きな影響を与える現象として、肯定的な側面と否定的な側面の両方を持ち合わせています。
この現象を正しく理解し、適切に対応するためには、その両面性を十分に認識しておく必要があります。
ポジティブな影響
キャンセルカルチャーは、時として社会の是正機能として働くと言われています。
- 差別や不正の追及により、社会的な問題に対する認識が高まる
- 企業や個人の不適切な行動に対して、迅速な改善を促すことができる
- 社会的マイノリティの声を可視化し、平等な社会の実現を後押しする
ネガティブな影響
一方で、以下のような危険性も指摘されています。
- 過激な反応や集団による過度な攻撃に発展するリスク
- 文脈を無視した一面的な批判や誹謗中傷の広がり
- 対象となった個人や組織の回復が困難になるケース
これらの両面性を理解した上で、企業や個人は適切な対応策を講じる必要があります。
キャンセルカルチャーとマーケティングの関係
ブランドイメージへの影響
SNSで不適切な行動や発言が拡散されると、企業イメージが大きく損なわれます。
その結果、商品やサービスの売上減少、不買運動の拡大といった実害につながることもあります。
ブランド戦略の一環として、炎上リスクの管理がより重要になっています。
購買行動の変化
消費者は価格や品質だけでなく、企業の社会的・倫理的スタンスを重視するようになっています。
とくにZ世代やミレニアル世代は、社会問題への意識が高く、「共感」できるブランドを積極的に選ぶ傾向があります。
企業コミュニケーションの重要性
SNS時代における企業コミュニケーションは、双方向性が当たり前です。
誤解を招く発言や広告表現をしないように配慮しつつ、もし批判を受けた場合でも迅速かつ誠意ある対応を行うことで、企業へのダメージを最小限に抑えられます。
日本におけるキャンセルカルチャーの実態
企業への影響
DHCの事例
DHCグループの創業者による人種差別的な発言や、社員の不当解雇疑惑がSNSで拡散され、多くの消費者がDHC製品の不買運動を呼びかけました。
SNSを通じてこの動きが広がり、企業イメージに大きなダメージを与える結果となりました。
Amazonプライムの事例
AmazonプライムビデオのCMに起用されたタレントの過去の発言が問題視され、「#Amazonプライム解約運動」というハッシュタグがSNS上で拡散されました。
企業が広告戦略で起用するタレントやインフルエンサーの「過去の言動リスク」が、改めてクローズアップされました。
個人・タレントへの影響
東京オリンピック開会式音楽担当者の事例
2021年に開催された東京オリンピックでは、開会式の音楽を担当する予定だったミュージシャンが、過去のいじめ行為を「自慢するような内容」で語っていたことが発覚し、社会的批判が殺到して辞任に追い込まれました。
テレビ番組出演者の降板事例
過去の不祥事や不適切な発言が発掘され、テレビ番組や広告の出演者が降板に追い込まれる例が相次ぎました。
当時は問題にならなかった過去の発言であっても、現代の価値観では許容されないケースもあります。
実践的な対策とリスク管理
事前チェックの重要性
キャンセルカルチャーへの対策で最も重要なのは、問題が発生する前の予防措置です。
企業がブランドイメージを守り、健全なマーケティング活動を継続するためには、以下のような包括的なチェック体制を整えることが不可欠だと言われています。
□ 広告素材の多角的なチェック
- 差別的表現の有無
- 文化的配慮の必要性
- ジェンダーバイアスの確認
□ 起用タレント・インフルエンサーの確認
- 過去の言動チェック
- SNSアカウントの投稿履歴確認
- 価値観の適合性評価
□ 社内の承認プロセス
- 複数部署による確認体制
- 外部有識者の意見収集
- 法務部門との連携
これらのチェックポイントは、単なるリストとして扱うのではなく、各項目について十分な議論と検討を行うことが重要です。
また、社会の価値観の変化に応じて、定期的に見直しを行うことも必要だと言われています。
キャンセルカルチャーは、企業や個人に対して大きな影響を与える現代の社会現象です。
リスクに対する予防と準備が、結果として企業価値の保護につながると考えます。