デザインにおいて、フォントの選び方は作品全体の印象を大きく左右する重要な要素です。
しかし、フォントを選ぶ際に目にする「フォントの表記名」には、多くの初心者が混乱しやすい要素が含まれています。
例えば、「A-OTF」や「Pr6N」といったアルファベットや数字が並んでいるフォント名を見たとき、その意味を理解できないことがよくあると思います。
フォントの表記名には、そのフォントが持つ仕様や特徴がぎっしり詰まっています。
これを理解すれば、適切なフォントを簡単に選べるようになるだけでなく、デザインの完成度を高めることができます。
今回は、フォント表記名の意味について学んでみたいと思います。
フォント表記名の基本構造
メーカーやフォント形式を表す部分
フォント表記の最初に「A-OTF」や「A P-OTF」といった文字列がついていることがあります。
これらは、フォントがどのメーカーのものであり、どのようなファイル形式であるかを示しています。
- A-OTF: モリサワが提供するOpenTypeフォントを指し、「A」はモリサワのフォント、「OTF」はOpenTypeフォントの略です。
- A P-OTF: モリサワのフォントの中でも、ペアカーニング情報を持つタイプです。文字の間隔が調整され、より精密なタイポグラフィが可能です。
同じデザイン名のフォントであっても、「A-OTF」と「A P-OTF」では機能が異なり、互換性がないため注意が必要です。
フォントのデザイン名
「A-OTF」や「A P-OTF」に続く部分がフォントのデザイン名です。
例えば、「A-OTF 新ゴ」や「A P-OTF リュウミン」がそれにあたります。
この部分は、デザイナーやグラフィックのスタイルに基づいたフォントの名前であり、選ぶ際の最も重要な要素です。
フォントの種類と違いを読み解く
かなのデザインを表す記号
日本語フォントでは、「かな」のデザインが異なることがあり、これを区別するために以下の記号が使われます。
- KL(大がな): 「かな」のサイズが大きめにデザインされたフォント。読みやすさを重視したり、文字が小さく表示される場面で使われます。
- KS(小がな): 「かな」のサイズが小さめのフォント。視覚的なバランスや行間を広く取りたい場合に適しています。
- KO(オールドがな): 縦長のプロポーショナルなデザインを持つ「かな」。古い活字デザインに基づき、クラシックな印象を与えます。
- NT: 「ネオツデイ」という新しいデザインに基づく「かな」を採用したフォント。現代的で洗練されたデザインが特徴です。
これらの記号はフォントの特徴や用途を理解するために欠かせません。
たとえば、特定のデザインでは、「かな」を小さめにしたり、クラシックな印象を求めてオールドスタイルを選ぶといった選択が可能です。
UDフォントとは?
「UD」とついているフォントは「ユニバーサルデザイン(UD)」フォントを意味します。これは、幅広い人にとって視認性が高く、読みやすさを追求したデザインが施されたフォントです。
UDフォントには以下の特徴があります。
- 文字のアキが広い: 文字と文字の間隔が広めに取られ、視認性が向上。
- 紛らわしい線を排除: 文字のデザインがシンプルで、誤読を防ぐために線が少なくなっています。
- 濁点や半濁点が大きめ: 細かい記号がはっきりと表示され、読みやすく設計されています。
UDフォントは、駅の案内板や公共施設、教科書などでよく使用されており、特に視認性を重視するデザインに適しています。
フォントの文字セットとウエイト
文字セットを表す「Std」「Pro」「Pr6」など
フォントの名前の後ろに「Std」「Pro」「Pr6」などの表記がある場合、それはそのフォントに収録されている文字セットの規模を示します。
特に日本語フォントでは、漢字の収録数がデザインに大きく影響します。
- Std: Standard(標準)を意味し、常用漢字や人名用漢字を含む標準的な文字セットです。基本的な文章作成に十分対応します。
- Pro: Professional(プロ向け)を意味し、Stdよりも収録文字数が多く、出版や商業印刷に適しています。
- Pr6: JIS第3水準・第4水準の漢字まで含む、最も多くの漢字を収録している文字セットです。学術書や新聞など、漢字の豊富さが求められる場面で活躍します。
ウエイト(L、R、Mなど)
ウエイトとは、フォントの太さを表します。デザインの中で、フォントの太さを調整することで、見出しや本文、注釈などを明確に区別でき、視覚的な強弱が生まれます。
- L(Light): 細めのフォントで、軽やかで上品な印象を与えることができます。
- R(Regular): 通常の太さのフォントで、最も一般的に使用されるバランスの良いウエイトです。
- M(Medium): Regularよりもやや太く、強調したい場面に適しています。
- B(Bold): 太字のフォントで、強い印象を与える際に使用されます。
フォントには「EB(Extra Bold)」「H(Heavy)」といったさらに太いウエイトもあり、視覚的インパクトを求めるデザインに使用されます。
Nフォントとは?JIS規格の違いを理解する
NフォントとJIS規格
日本語フォントには、フォント名の最後に「N」がついているものがあります。これは「Nフォント」と呼ばれ、JIS規格の異なる字形に対応していることを示しています。
日本語フォントにおけるJIS規格には、「JIS90」と「JIS2004」という2つの異なる字形基準があります。
「Nフォント」は、2004年に改定された「JIS2004」に準拠しているフォントです。
これに対して、Nがついていないフォントは「JIS90」に準拠しています。
例えば、「辻」という漢字では、Nありでは旧字風の二点しんにょう、Nなしでは略字風の一点しんにょうが使われています。
このように、漢字の形が異なるため、使う場面に応じてNあり・なしを使い分けることが必要です。
フォント選びのポイント
収録文字数に注目する
日本語フォントを選ぶ際、まず注目すべきは収録されている文字数です。
漢字を多く含む文章を扱う場合、収録文字数が少ないと「文字化け」する可能性があります。
Pr6のような文字セットが広いフォントを選べば、文字化けの心配が減ります。
ウエイトと視覚的効果
次に考慮すべきはウエイトです。
見出しや強調部分には太めのウエイト(BoldやHeavy)、本文には通常のウエイト(RegularやMedium)を使うことで、視覚的にバランスの良いレイアウトが可能です。
フォントファミリーが豊富なフォントを選ぶことで、統一感を保ちながらも自由にウエイトを調整できます。
フォントの表記名には、デザインの特徴や機能、文字セットに関する情報が多く詰まっています。
これらを理解することで、フォント選びの幅が広がり、より適切な選択が可能になります。
初心者でも、フォント名の意味を理解するだけで、デザインの質を大きく向上させることができると考えます。
参考記事
・https://www.morisawa.co.jp/blogs/MVP/6462
・https://dezasuta.com/columns/font/