現代のマーケティングでは、顧客とのコミュニケーションを図るために、複数のチャネルを効果的に活用することが求められています。
単一のメディアに依存するのではなく、広告、ソーシャルメディア、ウェブサイト、ダイレクトメール、展示会など、さまざまなタッチポイントを通じて一貫性のあるメッセージを発信することが重要だと言われています。
このような手法は、統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)と呼ばれており、今回はIMCの基本について学んでみたいと思います。
統合型マーケティングコミュニケーション
(IMC)の基本
定義と概要
統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)とは、企業が顧客とのコミュニケーションを図る際に、広告、ソーシャルメディア、ウェブサイト、ダイレクトメール、展示会、自社スタッフなど、あらゆるタッチポイントを活用し、一貫性のあるコンセプトに基づいてマーケティング活動を展開する手法です。
IMCを採用することで、ブランドメッセージの統一性を維持しつつ、顧客に対して効果的にアプローチすることが可能となります。
IMCの発展の背景と考え方
IMCという概念は、1980年代に「統合型マーケティングの父」と称されるノースウェスタン大学のドン・シュルツ教授によって提唱されました。
シュルツ教授は、企業が消費者とのあらゆる接点をメッセージ伝達のチャネルとして活用すべきであると主張しました。
1991年には学術的に認知され、その後のインターネットやソーシャルメディアの普及に伴い、IMCは進化を遂げてきました。
IMCの3つの段階(IMC1.0, IMC2.0, IMC3.0)
IMCは、その発展段階に応じて以下の3つのフェーズに分類されます。
- IMC1.0:広告、PR、ダイレクトマーケティング、セールスプロモーションなど、企業内で縦割りに実施されているマーケティングコミュニケーションを統合する段階。
- IMC2.0:顧客の視点に立ち、チャネル戦略とマーケティングコミュニケーションを一体化させる段階。
- IMC3.0:顧客、メディア、チャネル、社内組織を一つのプラットフォームとして捉え、ビッグデータを活用してマーケティングの成果を最大化する段階。
IMCのメリット
費用対効果の向上
IMCを導入することで、広告、CM、ポスター、ソーシャルメディアなど、異なるチャネルで使用する表現方法を統一できます。
統一されたコンセプトに基づいて素材を共有することで、各チャネルごとにコンテンツを一から制作するよりもトータルコストを抑えられます。
また、相乗効果によってマーケティングの成果を高めることが可能です。
一貫したメッセージによるブランド強化
さまざまなチャネルで統一されたメッセージを発信することで、顧客にデジャブを感じさせ、ザイオンス効果(単純接触効果)によってブランドへの親しみや信頼感を高めることができます。
顧客からの信頼性向上
どのチャネルでも一貫性のあるメッセージを発信する企業は、顧客にとって安心感があり、信頼できる存在となります。
また、IMCを導入することで、顧客に過剰なメッセージが届かないよう調整できるため、適切なコミュニケーションが可能となります。
IMCのデメリットと課題
実行の難しさ
IMCは広告、広報、展示会、デジタルマーケティングなど幅広い領域をカバーするため、実行には高度な専門知識が必要です。
また、営業やサポート部門との連携も求められるため、組織の縦割りを解消するのは容易ではありません。
クリエイティブの制限
統一コンセプトに基づくクリエイティブを求められるため、各部門が従来行っていた自由な発想に制約がかかる可能性があります。
また、新しいコンセプトが成功しなかった場合、全体の戦略が停滞するリスクもあります。
短期成果の難しさ
IMCの多くの成果は中長期的に現れるものであり、短期的なKPI(主要業績評価指標)で測るのは難しいです。
そのため、担当者のモチベーションを維持するためには、長期的な目標設定が必要です。
IMCの進め方
ステップ1:目的の明確化
IMCに取り組む目的を明確にします。
例えば、ブランディングの強化やマーケティング部門の収益貢献など、自社の状況に応じた目標を設定します。
関係部門との連携をスムーズにするため、最終的な決定権を持つ人物を明確にすることも重要です。
ステップ2:ペルソナの作成
自社の統合型マーケティングコミュニケーションが誰に向けてのものかを明確にするため、ペルソナ(理想の顧客像)を作成します。
ペルソナを共有することで、チーム全体が一貫した方向性を持ち、バラバラなメッセージを送ることを防ぎます。
ステップ3:統一コンセプトの設定と共有
IMCを成功させるためには、各チャネルで一貫したメッセージを伝えることが不可欠です。
共通コンセプトを決め、関係者全員がそのコンセプトを理解し共有することが大切です。
ステップ4:マーケティングプロモーションの設計
統一コンセプトが決まったら、実際のプロモーション計画を立てます。
各チャネルでどのようなプロモーションを行うかを具体的に設計し、関係者間で共有します。
ステップ5:PDCAサイクルの実践
定期的なミーティングを実施し、各担当者が進捗を報告し共有します。
マーケティングメッセージの齟齬がないか、キャンペーンの成果や課題を話し合い、改善策を講じます。
デジタルマーケティングの効果測定が容易な領域では数値データを活用し、改善を図ります。
成功事例の紹介
パナソニック コネクトの統合型マーケティング・コミュニケーション活動が受賞
パナソニック コネクトは、2022年4月1日の発足にあたって行った統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC)活動が評価され、「NIKKEI BtoBマーケティングアワード 2022」の「ブランディング賞」を受賞しました。
全社を巻き込んだプロジェクトで、パーパスを中心とした一貫したコミュニケーションを展開し、社名認知や企業理解の促進、共感の醸成に成功しました。
https://connect.panasonic.com/jp-ja/より引用
参考記事:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000005039.000003442.html
GoProの「Be a Hero」キャンペーン
GoProは、「Be a Hero」という統一コンセプトのもと、動画、雑誌、デジタルメディア、ビルボード、店頭など複数のチャネルで一貫したメッセージを発信しました。
これにより、製品の魅力を最大限に引き出し、多くの顧客に訴求することに成功しました。
freeeのSMB向けマーケティング
freeeは、「スモールビジネスを、世界の主役に。」というコンセプトのもと、検索エンジン最適化(SEO)や動画マーケティングを駆使し、中小企業や個人事業主に対して効果的なアプローチを行いました。これにより、多くの顧客を獲得し、成功を収めました。
https://www.freee.co.jp/?referral=aw_brandより引用
レッドブルのスポーツイベント活用
レッドブルは、「翼をさずける」という統一コンセプトのもと、ブログ、ソーシャルメディア、テレビイベント、スポーツイベントなど多岐にわたるチャネルを活用しました。
これにより、ブランド認知度を高め、エナジードリンク市場での圧倒的な地位を築きました。
https://www.redbull.com/jp-jaより引用
統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)は、中小企業にとっても重要なマーケティング手法です。
統一されたコンセプトに基づき、さまざまなチャネルで一貫性のあるメッセージを発信することで、ブランドの信頼性を高め、効果的なマーケティングを実現できると考えます。