ローソンの新パッケージデザインについて思うこと

ローソンの新パッケージデザインについて思うこと

ローソンの新パッケージデザインについて思うこと

ローソンが展開するプライベートブランドのパッケージが2020年春にリニューアルされてから賛否の声があがりはじめ、物議を醸しています。

いろんな意味で話題になっており、ユーザーからのいろんな意見や記事が出ていますが、あらためてデザインのコミュニケーションの取り方を考えさせられました。

今回はこの話題についてお話したいと思います。

総合パッケージデザインはnendo

パッケージデザインのリニューアルを担当したのは、nendo(WebサイトはSSL化されていないようなのでご注意ください)の佐藤オオキさんです。

イタリアにも拠点を置き、世界で活躍されており、「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれています。

素晴らしいデザインと志しの高さ、行動力や仕事のスピード感等、刺激を多く与えてもらっていて、とても尊敬している方です。


ユニバーサルデザインの欠落

そんな佐藤さんが手がけたローソンのパッケージデザインですが、2020年度中に全商品となる約700品目を切り替えていく予定です。

今回このパッケージデザインが問題になっているのは、一言で言うと消費者から「わかりにくい」ということが一番大きな問題です。

デザインリニューアルのプロジェクトは1年以上かかって、ローソンの竹増貞信社長と佐藤さんが進めていたようです。

※ローソン経営陣と親会社の三菱商事のしがらみもあるとか無いとかの記事もあったりで、複雑な大人の事情もあるのかなと思ったりしています。

その中で、デザインコンセプトのキーワードを「やさしさ」として、生活の中になじんでいくパッケージになるようにデザインイメージを作り上げて展開したところ、統一感がありすぎたことで、わかりにくいという弊害が生まれてしまった感じのようです。

そのため、商品が探しづらく、文字も視認性がよくないようで、ユニバーサルデザイン(できる限り世界中のあらゆる人が理解しやすいデザイン設計)の観点から疑問視がでてきています。

私も店頭で見たときに、ローソンの世界観が良い形で変わって、店内の雰囲気や買うときの気持ちはプラスになって心地良い感じがしましたが、確かにわかりにくいなと思いました。


無印良品のパッケージは「写真」

同じように商品パッケージを統一して、世界観をしっかり打ち出している会社で思いついたのが、無印良品です。

あらためて無印良品のパッケージデザインを見てみると、統一感がしっかりありながら、商品の判別がはっきりわかります。

その理由は「写真」です。

ローソンはイラストに振り切りましたが、無印良品は写真を大きくわかりやすく掲載しています。

人間の目は、やはり写真でかなり大きく理解が左右されているのだと、あらためて感じました。

ローソンもリニューアル前は商品全面に写真を大きく写したパッケージも展開していたのですが、なぜあえてこのようなパッケージデザインにしたのかという点が疑問に残ります。


斬新なパッケージデザインにした理由

その答えになるような記事が日経クロストレンドに掲載されていたのですが、来店するお客さまと長期に渡って深いつながりを持つためのメッセージを持つために、斬新なデザインに展開したようです。

また、多くの商品を展開するPB商品はパッケージの情報を訴求しすぎると逆に情報量が多すぎて、冒頭でお伝えした人や環境への「やさしさ」のコンセプトから外れると考え、ローソンが目指す「やさしさ」は、購入した商品で生活を豊かにしてくれる体験をお客さまに与え、生活にわびしさを感じさせないようにすることでした。

たしかに家で食事をするときに新しいPBデザインの商品パッケージがテーブルに並んでると、ほぼ無意識なところで少し気分があがるような気もします。

また、コンビニの男女比は6:4で女性が少なく、女性に豊かさを感じてもらえる存在にしたいという思いもあったり、購入する際の動機付けや、ビール等の商品はやさしいパッケージ(女性に受け入れられやすいイラストで展開したデザイン)にすることで買いやすくしたりしています。


パッケージリニューアル後は順調?

上記のように、あらゆることを想定して、挑戦的なデザインを目指した経緯が全体を通して考えられています。

そのためか、コロナ禍の影響もあると思うのですが、売上自体は順調のようで、特に冷凍食品は30%売り上げを伸ばしているようで、パッケージデザインのリニューアルによって売り上げが落ちている商品はほぼ無いそうです。

ネガティブな意見も多いようですが、いままで7回ローソンはパッケージのリニューアルをした中でポジティブな意見が一番多く、女性からも好意的な意見が寄せられているようです。

またローソンにある定番商品、ヒット商品との差別化を図って、バランスを取ることで全体の売り上げを向上させる意図もあり、長期的なスパンでパッケージデザインを考えを持っているようです。

私もいろいろと気になって、冒頭でお伝えしたとおり、今回実際にローソンに行って商品が並んでいるのを見てきたのですが、あらためて個人的に勉強になった点があったので、書き記しておきたいと思います。


商品の置き場によって印象が異なる

店内全体に渡ってPB商品が置かれているのですが、置き場によって購入意欲がまず変わりました。

冷凍食品はPB商品がほとんど埋め尽くされていて、窓越しにパッケージを確認するため、イラストメインのパッケージでは商品のわかりにくさが際立ち、また他の商品との比較も無いため、同じパッケージが整然と並んでいるのは、購入目的が明確で無いと、買いたいと思う気持ちにあまりなりませんでした。

逆に調味料(マヨネーズ等)や常温のレトルト食品、お菓子等は、他社の商品と並んでいるためか、パッケージの差別化が顕著にあらわれて目立っていました。

イラストも窓越し等では無いし、他の商品と見比べると、良い形で美味しく見えるので、全体の統一感を目指している点とは真逆になりますが、一番購入したい気持ちになりました。

また、他の商品より安価に設定されているようでしたが、なんとなく高級に見えてお買い得感も感じられ、買いたい気持ちになります。

またパン等はイラストを使用せずに、透明の袋に入れられているため、パッケージデザインの存在が薄れますが、中身がわかりやすいため、買いやすいと思いました。


戦略によっては異なる価値

全体をトータルで世界観を作り上げることは重要だと思いますが、他の商品が完全に無くなることは無いので、PB商品を全てリニューアルするというよりは、カテゴリー毎に絞って展開したほうが、効果的だったのかなと感じました。

あと、現実的に難しいとは思いますが、ナチュラルローソンだけに絞る、または店舗を限定する等で、価値を高めながら徐々に展開する形でも、ブランディングの観点からはアリだったような気がします。

戦略によって価値も変わるような気がしていて、ネガティブな意見が変わっていたのかもしれません。


デザインを意識する点のズレ?

上記でお伝えした売り上げの結果が全てとなると、成功したようにも思いますが、やはりテコ入れが始まっています。

ローソンの竹増社長もこの問題はしっかり把握しているようで、納豆が「NATTO」豆腐が「TOFU」と大きく記載されていたりしているので、わかりにくいと言っています。

ローソンの納豆パッケージ
納豆のパッケージデザイン

あらゆる意見を踏まえながら、一部の商品パッケージは早くて2020年7月には変更が決定しているとのことですが、もうすでに変更されたデザインがこの記事を投稿している時点で展開されているようです。

また「Lロゴ」と言われるデザインも展開されていて、色の感じを大事にしたようです。

全体のやわらかい印象や情報の視認性を重視して、店頭の照明のあたり方まで考え、またPB商品全体に展開しているイラストも、細部まで手間をかけながらやさしさを表現できるようにしているということです。

この点ももちろん重要なことですが、その前にもっと大きな重要事項があったことを、今回は見落とされていたのかもしれません。

実際に商品にこのLロゴがどのようについているのか確認してみると、どの商品にもとても小さく表示されており、一般の方がマークの違いや、どこについているのかもわからないぐらいでした。

パッケージに表示されたLロゴ(納豆、サンドイッチ、生ハム)
各商品にあしらわれたLロゴ(左から納豆、サンドイッチ、生ハム)

トップとトップで作り上げた事実

このような経緯で今回思ったことは、会社のトップと世界で活躍するデザイナーのトップが組んだとしても、消費者に受け入れられないことがあるということはよくあります。

nendoの数多くの実績をあらためて見ていたのですが、ローソン以外の総合デザインの実績はあまり無いように思いました。

このような事を、日々実際にデザインの制作を依頼される方々が、どのように捉えて、どのように依頼すればいいのか考えたいと思います。


佐藤可士和さんのケース

過去に、佐藤可士和さんがWebサイトのデザインを担当していた案件があるのですが、「色」によって各カテゴリーの商品が、わかりやすく識別できるようなデザイン構成で展開されていました。

ただ、Webサイトのデザイン実績が無いなかでの案件だったようで、あまり良い評価が無かったように記憶しています。(その会社はその後、倒産しました)


制作会社のデザイン領域を見極める

このようなことを考えると、実際にクリエイティブの仕事を制作会社へ依頼する時に気をつけることは、その制作会社がメインとしている業務や、デザインの範囲、領域を見つけておくことが重要だと思います。

そこから異なるデザインでも領域の近いところの案件を依頼すると、可能性として大きく飛躍する可能性もありますが、異なりすぎるデザイン領域に依頼する場合は、気をつけなければならないのかなと感じています。

デザインという大きなくくりの中では、あらゆる形に置き換えられるため、素晴らしい実績があったとしても、経験が無いところに足を突っ込んでしまうと、俯瞰して物事を考えられなくなりがちで、おかしてはいけない表現に突っ走ってしまう危険がはらんでいます。


制作会社への質問を用意

特に新規でデザイン制作会社に依頼する場合は、案件内容のヒアリングをおこなうときに、制作会社に対して質問を用意しておくことがポイントになると思います。

例えば、グラフィックメインの制作会社は、ウェブデザインについて疎いことが多く、その逆もあるため、質問を投げかけてみて様子を伺ってみると良いかもしれません。

例えば、

・目的とする意図をうまくくみ取っているか

・ユーザーの立場に立って考えられているか

・コンセプトがずれて見当違いの方向に向かっていないか

・基本的なこと、技術的なこと等、理解しているか

・質問に対して深掘りできているか

・打合せ後の確認事項のサポートがしっかりできているか

・実績について、プロセスをしっかり話せているか

のような質問を投げかけてどう返ってくるのかという感じです。


デザイン実績だけの判断は危険

今回のまとめとしては、制作会社の選択に間違いが無いように、実績の枠だけにとらわれず、まずヒアリングがしっかりクリアできる会社かどうかを見て、その後に実績を確認しながら判断することが求められていると感じます。

場合によっては、時間が許すのであれば、段階的にステップを組みながら、合間合間に第三者の意見を聞く状況を作ることも大切になってきます。


モニター調査、複数のデザイン案

イメージバナーでは以前、数十万部単位の折込チラシを何度も実施してきましたが、部数の規模に合わせて、デザインのラフ案を複数用意し、事前にモニター調査をおこないました。

そのほかにも、カタログ全体のイメージを左右する表紙案であったり、Webサイトのトップページ等も、全体のデザイン軸を決定づける内容については、事前に複数のデザインラフ案を用意することや、参考例等を用意することがあります。

できるだけ多くの方にいくつかのパターンで展開することが、良いこともあれば、よくない場合もありますが、いろいろなご意見をいただき、思ってもいなかった印象や捉え方等があり、依頼側、制作側にいろんなヒントが生まれて、とても建設的に進めることができます。

デザイン案を絞って展開していくことで、一定の効果をあげることができ、反響もあるため、このような手間は、費用もかかりますが、惜しまずに実施することで、得られる効果も大きいと感じています。

できるだけ的確なターゲット層を見極めながら、モニター調査やデザインの参考例、展開案等も交えて実施することが可能なら必要に応じて考えることをおすすめします。

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