「〜構文」という文化をご存知でしょうか? 「おじさん構文」や「おばさん構文」(私たち世代は耳が痛いです)が話題になり、先日の共通テストでは「ヒス構文」が登場し話題になっています。
今回は「〜構文」文化がどのように生まれ、広がっているのかを整理しながら、マーケティングにおいてどのような示唆があるのか考えていきたいと思います。
そもそも「おじさん構文」
「おばさん構文」とは?
まずは、既に定着した感のある「おじさん構文」「おばさん構文」についておさらいします。
おじさん構文
- チャットツールにも関わらず長文になりがち
- 「汗」「笑」などの絵文字やスタンプを多用
- 語尾が妙にカタカナ(例:「ヨロシクネ」など)
- 句読点が必要以上に多い
- ガラケー時代のメール文化を引きずったような文面
おばさん構文
- 長文・絵文字・句読点の多用という点でおじさん構文と共通
- 「ぉはょぅ」など小文字を混ぜたひらがなが特徴的
- お花やキラキラ系の絵文字を多用しがち
「おじさん」「おばさん」という呼称自体がSNS上のネタ要素を含んでおり、実際に本当のおじさん・おばさんだけが使っている表現ではありません。
若者同士で「おじさんLINEごっこ」をして楽しむこともあれば、自虐やジョークの一環として使われる場面もあるそうです。
“ヒス構文”とは?
〜 自虐&被害者意識たっぷりの言い回し〜
そして今注目されているのが「ヒス構文」です。
お笑い芸人・ラランドのサーヤさんがYouTubeで紹介したことを機に広まり、「JC・JK流行語大賞2023」(AMF発表)のコトバ部門で第2位にランクインしました。
ヒス構文の特徴
- 論点が飛躍しがち、論理がすり替わりがち
- 「じゃあもう○○しなさいよ」などヒステリックな言い回し
- 相手に罪悪感を抱かせる雰囲気を帯びている
- 自虐の強調や極端な受け止め(例:「私なんていなくなればいいんでしょ」など)
具体的には、お母さんが子どもの何気ない発言に対して過剰反応する例がよく挙げられ、子どもが「友達の家の麦茶、美味しかったな」と言っただけで、「あっそ。お母さんの麦茶より友達の家の方が良いってこと? そんなに他所のおうちがいいなら、養子にでも貰われたら?」と極端な方向に飛躍するような表現が典型だそうです。
若者は冗談として友人同士にヒス構文で返信し合い、相手の反応を見て楽しんでいます。
「おじさん構文」ブームと同様、SNSやLINEのやり取りのなかでどんどんアレンジされているようです。
なぜこれほど”構文”が流行るのか?
1. ミーム化しやすい
「〜構文」には定型パターンがあり、真似しやすい・アレンジしやすいという特徴があります。
SNS特有の”ネタの素早い拡散”と相性が良く、Duolingo(語学アプリ)の公式アカウントがキャラクターを使ってヒス構文を発信し、大きくバズったことからも分かるように、企業がマーケティングで取り入れやすいというメリットもあります。
引用:「Duolingo(デュオリンゴ)」日本公式アカウントhttps://twitter.com/Duolingo_Japan/status/1730167284503658641
2. 若者文化の内輪ノリとして
「おじさん構文」「おばさん構文」なども含め、元々は”外部”の世代や立場を茶化すようなところから生まれましたが、いまでは完全に若者同士の内輪ノリとして広がっています。
ちょっと極端な言い回しをするだけで友人同士が盛り上がる、というコミュニケーションの一種です。
3. 自虐や風刺として楽しめる
特にヒス構文は、元々お母さんや先生から言われた経験がある人には「あるあるネタ」として分かりやすく、また自分が口にしていたかもしれない言葉を客観的に見ることで笑いにもなる、という双方の面白さを含んでいます。
「自分を卑下して笑いを取る」という文化は、昭和的な”自虐ネタ”の発展形とも言えますが、SNSのスピード感で広がることで、若者だけでなく幅広い層の共感や反感も呼び起こしやすくなっているのが特徴です。
マーケティング視点で見る
「〜構文」の活かし方
企業やブランドがSNSで話題を集めるために「〜構文」を活用するのは、一見するとリスキーにも思えます。
しかし、Duolingoの事例にもあるように、いま流行しているものをうまく取り入れることができれば、多くの人の目に留まりやすいというメリットがあると考えます。
使用のポイント
- 1. ユーザーがジョークと受け取れる文脈を作る
- 皮肉やヒステリックな言い回しを、そのまま企業アカウントが発信すると「炎上リスク」が高まる恐れがあります。
キャラクターやイラストを組み合わせたり、「あえてネタとして使っている」ことが伝わる脚注や絵文字を使うなど、冗談だと理解してもらう工夫が必要です。
- 皮肉やヒステリックな言い回しを、そのまま企業アカウントが発信すると「炎上リスク」が高まる恐れがあります。
- 2. 過剰使用に注意
- 一度バズったからといって、何度も多用してしまうと「寒い」「またやってる」と敬遠されるおそれがあり、SNS担当者が”流行に乗っかった”と見られないように、タイミングやトーンを見極めることが大切だと考えます。
- 一度バズったからといって、何度も多用してしまうと「寒い」「またやってる」と敬遠されるおそれがあり、SNS担当者が”流行に乗っかった”と見られないように、タイミングやトーンを見極めることが大切だと考えます。
- 3. あくまでユーザーが中心
- 企業の発信はあくまでもきっかけに過ぎず、実際にはユーザーがアレンジや拡散をして「ミーム」として成長します。
そのため、ユーザーが真似しやすい、盛り上がりやすい要素を提供することが大事だと考えます(専用ハッシュタグやキャンペーン企画など)。
- 企業の発信はあくまでもきっかけに過ぎず、実際にはユーザーがアレンジや拡散をして「ミーム」として成長します。
2023年の「ヒス構文」ブームは、おじさん構文・おばさん構文に続くミーム文化の一端として広がりを見せ、さらに2024年の共通テストで関連する話題が出たことで、”構文”が再びクローズアップされる結果になっています。
もともと”ネタ”として楽しむ要素が強い「〜構文」は、世代間のコミュニケーションギャップを痛快に描写し、SNSで拡散されながら多彩にアレンジされていくのが特徴です。
一方で、ヒステリックな物言いが誤解や不快感を招くこともありうるため、どこまでを「笑い」に昇華させられるかの見極めが必要で、企業アカウントなどが活用する際には、ユーザーに受け入れられる表現かどうか、炎上のリスクはないか、十分に注意を払う必要があると思われます。
流行している言葉だからこそ、上手に取り入れることで一気に注目を集められる反面、使い方を誤ると信用を失いかねない両刃の剣であり、ブームが去った後にどうブランド価値に結びつけるかが、マーケターや企業SNS担当者の腕の見せどころになるのだと思います。
参考記事
・AMF「JC・JK流行語大賞2023」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000017469.html
・大学入学共通テスト 国語に「ヒス構文」登場、受験生思わずニヤリ(YAHOO!ニュース)
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6526396
・教育とICTOnline「第132回 若者に人気の「ヒス構文」とは」
https://project.nikkeibp.co.jp/pc/atcl/19/08/28/00031/011700145/