企業の存在意義を高めるパーパスの重要性と小規模ビジネスでの活用

パーパスという言葉をご存知ですか?

近年、企業の経営戦略やブランディングにおいて「パーパス」が重要な役割を果たすようになってきたと言われています。
パーパスとは、企業が社会に対してどのような存在意義を持ち、どのような価値を提供するかを示すもので、これにより、企業は単なる利益追求だけでなく、社会全体に貢献する姿勢を明確にすることが求められているのだそうです。

小規模ビジネスであっても、この「パーパス」という考え方を取り入れるメリットは大いにあると考えています。

今回は、パーパスの基本や企業事例について学び、小規模ビジネスでパーパスの考え方を取り入れる際のヒントにできればと思います。



1. パーパスとは?

パーパスの重要性
パーパスが重要視される理由は、以下の点が挙げられます。

  • ブランド価値の向上
    パーパスを明確にすることで、顧客やステークホルダーからの共感と信頼を得やすくなると言われています。
    消費者は社会的な意義を持つ企業を支持する傾向が強く、パーパスはブランド価値の向上に寄与すると考えられます。
  • 従業員のモチベーション向上
    パーパスは従業員に働く意義を提供しますし、自分の仕事が社会にどのように貢献しているかを実感することで、モチベーションやエンゲージメントが高まると言われています。
  • 持続可能な成長
    社会的な課題に取り組むパーパスは、企業が持続可能な成長を遂げるための道しるべとなりますし、環境問題や社会問題への対応を通じて、企業は社会からの信頼を築くことができると言われています。

2. パーパスの歴史と背景

日本の「三方よし」の精神

パーパスの概念は新しいものではなく、特に日本では古くから「三方よし」という経営理念が存在していました。
「三方よし」とは、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」という三者すべてが満足する商売のあり方を示す言葉です。
この考え方は、江戸時代の近江商人によって実践されており、企業活動が社会全体に利益をもたらすべきだという理念を表しているそうです。


アメリカの株主資本主義からの転換

一方で、アメリカでは長い間、株主資本主義が企業経営の基本原則とされていました。
株主の利益を最優先する経営スタイルが主流であり、企業は短期的な利益の最大化を目指して活動してきました。

しかし、2019年8月、アメリカの大手企業からなるロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル(Business Roundtable)」が重要な声明を発表し、この声明では、企業は株主利益の最大化だけでなく、「顧客に価値を提供する」「従業員に適切な投資を行う」「取引先を公平に扱う」といったパーパスの実現を目指すべきだと提言したそうです。

この声明をきっかけに、アメリカの企業も株主資本主義から脱却し、社会全体に対する責任を果たす経営スタイルへとシフトする動きが広がっていると言われています。


3. パーパスが注目される背景

新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルス感染症のまん延は、世界中の企業に大きな衝撃を与えました。
この未曾有の危機により、多くの企業が自社の存在意義、すなわちパーパスを見つめ直すきっかけとなったそうです。

多くの企業が、自らの事業活動が社会にどのように貢献できるかを再評価することになったと言われ、具体的には、トヨタ自動車が医療用フェイスシールドを製造し、シャープがマスクの生産を開始するなど、企業が持つ技術やリソースを活かして社会貢献活動を展開しました。

これらの取り組みは、単なる慈善活動ではなく、企業のパーパスに基づくものであり、社会からの信頼を得る結果となりました。


ミレニアル世代の価値観の変化

ミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭に生まれた世代)は、従来の世代とは異なる価値観を持っています。

この世代は、企業の売上高や利益よりも、企業文化や社会への貢献度を重視する傾向が強く、就職先を選ぶ際にも、単に高給与や安定性を求めるのではなく、企業がどのように社会に貢献しているか、どのようなパーパスを持っているかを重要視するのだと言われています。

アメリカでビジネスパーソンを対象に行われた調査では、「社会に対してポジティブなパーパスを掲げる企業で働くならば、給与が下がっても良い」と答えた人が約半数に上るという結果が出ており、ミレニアル世代の価値観の変化は、企業がパーパスを掲げることの重要性を高めていると言われています。


投資家の評価基準の変化

投資家の評価基準も変化を遂げていると言われており、従来は企業の評価は主に「収益が得られるかどうか」に基づいていました。

しかし近年、持続可能な社会やESG(環境・社会・ガバナンス)に対する関心が高まるにつれ、「社会的課題の解決に貢献できるかどうか」が重要な評価基準となりつつあるのだそうです。

投資家は、長期的に見て社会的責任を果たす企業が持続可能な成長を遂げると考えており、ESG要素を重視した投資が増え、パーパスを持つ企業が注目されているのだそうです。
これからの時代、パーパスを持つことは企業の評価ポイントとなり、持続可能な成長を実現するための重要な要素になると言われています。



4. パーパスとMVV
(ミッション・ビジョン・バリュー)との違い

パーパスとよく混同される概念に、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)があります。
これらの用語は企業の戦略や方向性を示す重要な要素ですが、それぞれに異なる意味と役割があります。

ミッション(Mission)

ミッションは、企業が果たすべき使命や任務を表しており、具体的には、企業が存在する理由や、顧客に提供する価値を明示するものだと言われています。
例えば、「お客様の生活をより豊かにするために、最高品質の製品とサービスを提供する」といった内容です。
ミッションは通常、短期的な目標やタスクに焦点を当てており、企業の具体的な活動内容を示すものです。
一方で、パーパスはより広範な社会的意義を持ち、企業が存在する根本的な理由を示すと言われています。


ビジョン(Vision)

ビジョンは、企業が将来に実現したい理想像や目標を表し、これは企業が中長期的に目指すべき方向性を示し、全社員が共有する未来の姿を描いたものだと言われています。
例えば、「持続可能な未来を創造し、次世代に豊かな地球を残す」といった内容が挙げられます。
ビジョンは企業の将来的な成長や発展の方向性を示しますが、パーパスは現在の企業の存在意義に焦点を当てており、ビジョンは未来に向けた目標設定である一方、パーパスは今現在の行動の基盤となると考えます。


バリュー(Value)

バリューは、企業や従業員が持つべき価値観や姿勢を表し、これは企業がミッションやビジョンを実現するために必要な行動指針となります。
「誠実さ」「革新」「チームワーク」「顧客第一」といった内容が例として挙げられます。
バリューは、企業の文化や従業員の行動に直接影響を与えるものであり、企業のDNAとも言われています。
パーパスが企業の存在意義を示す一方で、バリューはその存在意義を実現するための具体的な行動指針を提供します。



5. パーパスの意義とメリット

ステークホルダーからの共感

パーパスを明確にすることで、企業は利益追求だけでなく、現代社会の課題にフォーカスした活動を行うことができます。
これにより、顧客、従業員、取引先、地域社会、投資家などのステークホルダーから信頼や共感を得ることができると言われています。


ESG推進に貢献できる

ESG(環境・社会・ガバナンス)の推進は、企業が持続可能な成長を遂げるために不可欠な要素だと言われていて、パーパスにESGの目標を組み込むことで、企業は環境保護、社会貢献、ガバナンスの強化を実現しやすくなると言われています。


革新や変化の創出

パーパスを持つことで、企業は自社の存在意義を再確認し、新しいアイデアや革新を生み出すための基盤を築くことができると言われています。
パーパスは、企業が変化する市場環境に適応し、新しいビジネスチャンスを見つけるための指針となるのだそうです。


従業員のロイヤリティ向上

パーパスは、企業と従業員が共有する価値観や目標を明確にし、従業員のモチベーションやエンゲージメントを高めると言われており、従業員は、自分の仕事が社会に対してどのような意味を持つかを理解することで、誇りを持って働くことができると言われています。


6. パーパスブランディングとは?

パーパスブランディングの定義と目的

パーパスブランディングとは、企業が自身の存在意義(パーパス)を明確にし、それをブランドの中心に据えて発信することで、社会からの支持や共感を得る戦略です。
これにより、企業の長期的なブランド価値を高めることを目的としています。

従来のブランディングは、消費者個人にとっての価値やメリットにフォーカスし、主に利益の拡大を目指していましたが、パーパスブランディングはそれとは異なり、社会全体に対する企業の貢献や責任に焦点を当てています。
そのため、利益と直結しない場合もありますが、長期的には企業の持続可能な成長を支える重要な要素だと言われています。


パーパスブランディングの効果

  • 事業領域
    パーパスブランディングを進めることで、新たな顧客体験を創出できると言われています。
    例としてパーパスを起点にしてSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)といった視点を取り入れた商品やサービスを提供することで、顧客から見てブランド価値を感じやすくなります。
  • 人事領域
    パーパスブランディングは、人材の採用や育成にも大きな影響を与えると言われており、企業がパーパスを明確に発信することで、それに共感した優秀な人材を引き寄せることができるとともに、既存の従業員から高いエンゲージメントを得ることができると言われています。
  • 組織領域
    パーパスブランディングを行うことで、企業内の組織体制にも変化が生まれると言われており、社会や顧客にどのような価値を提供すべきかに向き合うことで、部署間の壁を越えてプロジェクト単位での有機的な組織体制が構築されると言われています。

7. パーパスの運用方法

パーパスブランディングの実施方法

パーパスブランディングを実施するには、まず企業が自身のパーパスを明確に定義することが必要です。
その後、そのパーパスを基にしたブランディング戦略を立案し、企業全体で共有し、実践に移します。具体的なステップについて下記のように言われています。

ステップ1: パーパスの策定
パーパスを運用する最初のステップは、その明確な策定です。
パーパスは企業の存在意義を反映し、ステークホルダーに理解されやすい形で表現されるべきだと言われています。

  • パーパスステートメントの作成: 自社の強みや価値観、社会に対する貢献を考慮し、具体的でシンプルな言葉でパーパスを表現します。
    多くの企業は「我々のパーパスは」という書き出しでステートメントを作成します。
    • 例: 「我々のパーパスは、持続可能な未来を創造し、すべての人々の生活の質を向上させることです。」

ステップ2: パーパスの実施
パーパスを策定したら、次にそれを企業全体で実践する段階に移ります。
パーパスを実現するための具体的なプロジェクトや活動を計画し、実施します。

  • 社内への浸透: パーパスを全従業員に共有し、理解を深めるための研修やワークショップを行います。
    経営者自身がパーパスの重要性を説き、リーダーシップを発揮することが求められます。
  • 具体的なプロジェクトの立ち上げ: パーパスに基づいたプロジェクトを立ち上げ、各部門での具体的なアクションプランを策定します。
    • 例: 環境保護活動や地域貢献プロジェクトなど、パーパスに直結する取り組みを実施する。

ステップ3: パーパスの評価
パーパスに基づいた活動を実施したら、その効果を評価し、成果を社内外に共有します。

  • 評価とレポート: パーパスに基づいた活動の成果を定量的および定性的に評価し、レポートとしてまとめます。
    これを企業の公式サイトや社内報に掲載し、透明性を保ちます。
  • 継続的な改善: 評価結果を基に、パーパスの運用方法や活動内容を継続的に見直し、改善を図ります。
    • 例: 環境保護活動の成果を測定し、次年度の目標設定に役立てる

パーパスの運用におけるポイント

一貫性の維持

パーパスを運用する際には、一貫性を持って取り組むことが重要です。
企業の全活動がパーパスに基づいて行われるよう、全体の整合性を保つことが求められます。

従業員の巻き込み

パーパスは全従業員が共有し、実践するものであるため、従業員の巻き込みが不可欠です。
意識改革を促すための研修やワークショップを積極的に行いましょう。

透明性の確保

パーパスに基づく活動やその成果を透明性を持って公開することが、ステークホルダーからの信頼を得るために重要です。


8. パーパスの企業事例

パーパスを掲げ、その実現に向けた取り組みを行っている企業の事例を紹介します。これらの企業は、自社の存在意義を明確にし、それを基にした経営戦略を展開することで、社会的な信頼と支持を得ています。

ソニー

パーパス: 「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」

  • 具体的な取り組み:
    • 期間限定でのゲームタイトルの無料配信
    • 創作活動を行う小規模インディースタジオへの支援
    • 新型コロナウイルス感染症の影響を受けた人々への支援ファンドの設立

https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/purpose_and_values/より引用


ネスレ

パーパス: 「食の力で、生活の質を高める」

  • 具体的な取り組み:
    • 健康増進に寄与する新製品の開発
    • 持続可能な農業のためのプログラムの実施
    • 地域社会への食糧支援活動

https://www.nestle.co.jp/aboutus/how-we-do-business/purpose-valuesより引用


富士通

パーパス: 「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。」

  • 具体的な取り組み:
    • スマートシティプロジェクトの推進
    • デジタルインクルージョンを目指した教育プログラムの提供
    • 環境負荷の低減を目指す技術開発

https://www.fujitsu.com/jp/about/purpose/より引用


株式会社LION

パーパス: 「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する (ReDesign)

  • 具体的な取り組み:
    • スローガンを基にした製品開発とマーケティング活動
    • Vision2030に基づく長期的な経営戦略の展開
    • 社会貢献活動の一環としての教育支援プログラム

https://www.lion.co.jp/ja/company/philosophy/より引用


エプソン
パーパス: 「『省・小・精』から生み出す価値で、人と地球を豊かに彩る

  • 具体的な取り組み:
    • 環境負荷の少ない製品開発
    • 地域社会との共生を目指した取り組み
    • サステナビリティに基づく企業活動の推進

https://corporate.epson/ja/philosophy/purpose/より引用


これらの企業は、自社のパーパスを明確にし、それに基づいた戦略を展開することで、社会的な信頼を得るとともに、持続可能な成長を実現しています。


9. 中小企業がパーパスを取り入れる際のポイント

中小企業がパーパスを取り入れることで、社会的な信頼を得て、持続可能な成長を実現することができると考えます。
しかし、リソースや影響力が限られているため、特有の課題も存在します。
ここでは、中小企業がパーパスを効果的に取り入れるためのポイントについてまとめます。

1. 自社の強みと価値の見直し
中小企業がパーパスを策定する際には、自社の強みや価値を見直すことが重要です。
自社が何を得意とし、どのような価値を提供できるのかを明確にすることで、パーパスの基盤を築くことができます。

  • ステップ
    • 自社の歴史や文化、過去の成功事例を振り返る
    • 顧客や従業員、取引先からのフィードバックを収集する
    • 自社の強みや独自性を洗い出し、それを基にパーパスを定義する

2. パーパスの具体的な言葉化
パーパスは、誰にでも分かりやすく、シンプルで具体的な言葉で表現することが重要です。
曖昧な表現ではなく、具体的なアクションや価値を示すことで、従業員やステークホルダーに共感を得やすくなります。

    • 「地域社会と共に成長し、持続可能な未来を築く」
    • 「環境に優しい製品で、生活を豊かにする」

3. 社内外への浸透と共感の醸成
パーパスを策定したら、それを社内外に浸透させ、共感を醸成することが重要です。
特に従業員がパーパスを理解し、日々の業務に反映できるようにするための取り組みが必要です。

  • ステップ
    • 全従業員を対象にしたパーパス研修やワークショップの実施
    • 経営陣からの定期的なメッセージ発信
    • パーパスに基づく社内表彰制度の導入

4. 持続可能な運用方法
パーパスを運用するためには、持続可能な方法を確立することが重要です。
定期的な評価と改善を行い、パーパスが企業活動の中心に根付くようにします。

  • ステップ:
    • 定期的なパーパスに基づく活動の評価と報告
    • パーパスに関連する目標の設定と進捗管理
    • 社内外からのフィードバックを基にした継続的な改善

パーパスは企業の存在意義を示すものであり、社会に対してどのような価値を提供するかを明確にする重要な概念です。
企業がパーパスを掲げ、それに基づいた経営を行うことで、持続可能な成長を実現し、社会からの信頼を得ることができると考えます。

中小企業にとってもパーパスの考え方を取り入れることは非常に有益であると考えていて、大企業のように大それたことではなく、親しみやすく、分かりやすい言葉で身近な人たちから伝えていくことが、中小企業にとっては導入しやすいと感じました。


参考記事
https://prdx.co.jp/visions-prdx/purpose10/
https://www.kaonavi.jp/dictionary/purpose/