ステマという言葉が広く知られるようになってから、随分と長い時間が経ったような気がします。
「ステマ」とは「ステルスマーケティング」の略で、消費者がそれを広告と認識できないように隠して行うマーケティング手法です。
消費者や有名人が自然に商品やサービスを推薦しているように見せかけて、実際にはその背後で企業からの金銭的な支援や指示が隠されている、という広告手法です。
ステルスマーケティングは消費者に誤解を与える可能性があり、多くの国で法的な規制の対象となっているそうです。
また、ステルスマーケティングは透明性を欠くため、企業にとっては消費者の信頼を損ねるリスクも高いとされています。
2023年3月28日に「不当景品類及び不当表示防止法=景品表示法」において、「不当表示」という項目が追加され、一般消費者が広告と認識できない表示に対して制限がかけられるようになりました。
日本でもステルスマーケティングは違法行為として正式に景品表示法違反の対象となっているため、広告制作に関わる者としては、正しい知識を持っておきたいところです。
今回は、ステルスマーケティングについて再考します。
ステルスマーケティングの定義
ステルスマーケティング、略してステマとは、広告であることを意図的に隠し、消費者に普通の情報や推薦として受け取らせるマーケティング手法です。
一般的な広告はその存在を明示することで消費者の意識に訴えかけますが、ステルスマーケティングは消費者が広告だと認識することなく、商品やサービスに対して肯定的な印象を持つように誘導します
ステルスマーケティングの主な手法
ステルスマーケティングには様々な形がありますが、主に以下の二つの手法が広く用いられているそうです。
なりすまし型
影響力のある人物に見せかけて、自らの意見として商品やサービスを推奨するが、実際には企業に関連した人物が運営していたり、企業からの指示が関与している。
利益提供型
インフルエンサーや有名人に直接報酬を提供し、その商品やサービスを宣伝させる手法。
消費者には報酬の存在が隠され、自発的な推奨と誤認されることが多い。
ステルスマーケティングの問題点
ステルスマーケティングの最大の問題は、消費者の真の選択を妨げることにあります。
市場の透明性が損なわれ、消費者が情報に基づいた合理的な決定を下す機会が侵害されます。
さらに企業の信頼も大きく損ねることに繋がり、ステルスマーケティングが公になった場合のリスクは非常に大きいと考えられます。
問題となったステルスマーケティングの事例
なりすまし型ステマの事例
事例1: ソーシャルメディアでのなりすまし
ある有名なスポーツウェアブランドは、一般消費者に扮したアカウントを用いて、製品の隠れた宣伝を行いました。このアカウントは製品に対する肯定的なコメントやレビューを投稿していましたが、実際にはスポーツウェアブランドのマーケティング担当者が運営していました。
この行為が明るみになり、消費者の信頼を大きく損ね、ブランドイメージに重大な打撃を与えました。
事例2: オンラインレビューの操作
食品業界で、ある企業が自社の製品に対する偽のポジティブなレビューを作成し、消費者の購買行動に影響を与えました。この企業は、外部のレビュアーに報酬を支払って、非常に高評価のレビューを書かせていたそうです。
この行為が公になった結果、法的な措置に直面し、企業の信頼性が損なわれました。
利益提供型ステマの事例
事例3: インフルエンサーによる未開示のプロモーション
美容製品を扱うある企業は、複数のインフルエンサーに製品を宣伝させましたが、これらの投稿が広告であることを明示していませんでした。消費者はこれらの投稿をインフルエンサーの個人的なおすすめと誤解し、後にこれが広告であったことが発覚すると、インフルエンサーや企業に対する批判が高まりました。
ステルスマーケティングは一時的には効果があるかもしれませんが、長期的には企業の信用を損ね、法的リスクや社会的信用の喪失を招くことが多いことがわかります。
法的な規制とその必要性
ステルスマーケティングの問題が社会的に認識されるにつれ、多くの国でこれを規制する法律が制定されています。
日本におけるステルスマーケティングの規制
日本ではステルスマーケティング、つまり消費者に広告であることを認識させずに行われる広告活動に対して法的な規制が設けられています。
主な法規制
景品表示法:景品表示法は、不当な表示による消費者の誤認を防ぐための法律です。この法律の「優良誤認」や「有利誤認」という部分がステルスマーケティングに対する規制に関連しています。
企業が広告であることを隠して商品やサービスを推奨する場合、それが事実と異なる有利な情報を提供していると判断されると、法律違反になります。
公正取引委員会のガイドライン:公正取引委員会は、消費者を誤認させるような広告宣伝についてのガイドラインを設けており、その中で広告であることを隠して宣伝活動を行うステルスマーケティングは、消費者の誤認を招く行為として問題視されています。
これに違反した場合、警告や排除命令などの措置が取られることがあります。
国際的な規制事例
- アメリカ
アメリカでは、連邦取引委員会(FTC)がステルスマーケティングを含む虚偽広告を厳しく規制しています。特にインフルエンサーマーケティングにおいて、広告内容が明確に示されていない場合、法的措置を取ることがあります。 - ヨーロッパ
ヨーロッパ連合(EU)では、消費者保護の観点から、広告はその性質を明確に示す必要があるとされています。特にデジタルマーケティングに関する指針が強化され、透明性が求められています。
規制の必要性
これまで述べてきたように、ステルスマーケティングは、短期的に見れば効果的な広告手法かもしれませんが、長期的には消費者の信頼を損ねることに繋がります。
法的規制は、不正な商慣行を防止し、消費者が正確な情報に基づいて製品やサービスを選べるようにするために必要です。
また、企業間の公平な競争を保つためにも、明確なルールが設けられることが重要だと考えます。
持続可能なマーケティングへの移行
「マーケティング倫理」という言葉があります。
「マーケティング倫理」は、マーケティング活動を行う際に守るべき道徳的な原則や行動基準を指し、これには、正直さ、透明性、公正性、責任感などが含まれます。
具体的には、消費者を誤解させるような広告を避け、真実かつ正確な情報を提供すること、消費者のプライバシーを尊重し保護すること、競争相手に対して公平な競争を行うことなどが求められます。
ステルスマーケティングは、その隠密性が倫理的なジレンマを生じさせています。
消費者に真実を明かさずに製品を推奨することは、一時的には成功を収めるかもしれませんが、公になった場合のダメージは計り知れません。
ステルスマーケティングの法規制や倫理的な問題を避けるため、多くの企業は透明性を重視したマーケティング戦略へと移行しています。
例えば、インフルエンサーマーケティングでは、広告であることを明確に示す「#ad」や「提供:〇〇社」といったタグを使用することが一般的になっており、この対策により、消費者は情報を正しく理解し、自己の判断で製品を選ぶことが可能になります。
今回はステルスマーケティングについて再考しました。
ステルスマーケティングの誘惑を避け、倫理的かつ透明性の高いマーケティング戦略を採用することが、企業にとっても消費者にとっても最善の道であることを改めて認識しました。