大正製薬のステマ事件から学ぶステルスマーケティングのリスクと法規制

2024年11月、大手製薬会社である大正製薬が景品表示法違反による「ステルスマーケティング(ステマ)」の措置命令を受け、話題となっています。
今回の事件は、SNSでの宣伝やインフルエンサーマーケティングが一般化している現代において、消費者保護や広告の透明性が一層重要であることを示しています。
今回は、改めてステルスマーケティングの定義やリスク、法規制の動向、過去の事例を踏まえ、企業や消費者が注意すべき点について考えてみます。


大正製薬のステマ事件

まず、今回の大正製薬のステマ事件について振り返ります。
問題となったのは、同社が販売するサプリメント「NMN taisho」に関するインスタグラム投稿の一部が、公式サイトに転載された際に「広告である」との表記が無かったことです。
大正製薬の宣伝方法は、消費者に対してその表記が広告であることを判別するのが困難であると消費者庁に指摘され、景品表示法違反にあたるとされました。


消費者庁によると、同社は2024年6月に複数のインフルエンサーに対してインスタグラムでの投稿を依頼し、報酬を提供していました。
このインフルエンサーたちが「体に入れるものは安心できるものが良い」「衛生的でとても便利」などと記載した投稿が公式サイトに「ユーザーの意見」として転載されたものの、PR表記が無く広告であると明確にされていなかったのです。このため、消費者庁はステルスマーケティングに該当すると判断し、措置命令に至りました。


ステルスマーケティング(ステマ)とは何か?

「ステルスマーケティング(ステマ)」とは、消費者に対して広告であることを隠し、商品やサービスを宣伝するマーケティング手法です。
通常の広告や宣伝と異なり、消費者はそれが企業から提供されている情報であると認識しにくいため、信頼性が高い情報と感じやすくなることが特徴です。

ステマは主に以下の3つの形態で行われます。

なりすまし型

企業が一般の消費者や第三者になりすまし、製品やサービスのレビューや意見を投稿する。

第三者への指示型

企業がインフルエンサーや第三者に商品を推奨させ、広告表記をつけずに宣伝を行う。

利益提供型

報酬や無償提供を条件に消費者に良いレビューを書かせる

これらの手法は、消費者が情報を受け取る際に、その広告の出所や内容の正確性を見極めるのが難しくなるという問題を生み出します。


「ステマ」のリスクと消費者への影響

ステマが発覚した場合、企業は消費者からの信頼を大きく損なうリスクがあります。
大正製薬の今回の事件も、その一例です。

信頼性の損失

企業が消費者に正直で透明な情報を提供していないと判断された場合、顧客の信頼が大きく揺らぎます
顧客がその企業の商品やサービスを再度選択する可能性も低下し、リピート客の減少につながります。

ブランドイメージへの悪影響

ステマ行為は企業のブランド価値を損ない、企業イメージに大きなダメージを与えます。
特にSNSでは、ステマが発覚した情報が瞬時に広がり、批判が集まる「炎上」に発展するリスクも高まります。

法的リスク

ステマは違法行為であり、景品表示法に違反すると行政からの処分を受け、企業にとっては多額の罰金が課される可能性もあります。

これらのリスクを考慮すると、企業はステマを行うことで短期的な利益を得たとしても、長期的なブランド価値を大きく損なう可能性があるため、極めてリスクの高い手法であるといえます。


近年の法規制強化:
2023年10月からのステマ規制

2023年10月1日より、日本では景品表示法においてステルスマーケティングが「不当表示」として明確に規制されるようになりました。
この法改正は、広告が消費者にとって透明であることを求め、企業が「広告であること」を明確に表示しないステマ行為を行った場合、処分対象とするものです。
これにより、企業はデジタル広告やSNS広告を行う際に、広告表記を徹底し、消費者に誤認されることがないよう注意が必要となりました。


過去の有名な
ステルスマーケティングの事例

大正製薬の事件以外にも、企業がステマ行為を行い、批判を浴びたケースは過去にも数多く存在します。以下はその一例です。

ウォルマートの偽ブログ

ウォルマートは、一般人のカップルに扮した偽ブログで自社を好意的に紹介していた事実が発覚し、批判を浴びました。

ソニーの架空評論家事件

ソニー・ピクチャーズは、実在しない評論家をでっち上げ、映画の評価を不正に操作していたことが発覚しました。

ディズニーのPR表記なし投稿

ディズニーが複数の漫画家に報酬を支払い、映画「アナと雪の女王2」の感想漫画をTwitterに投稿させましたが、PR表記が無く批判を招きました。

これらのケースでは、いずれも企業が誤解を招く宣伝行為を行い、最終的には消費者の信頼を失う結果となりました。
このような事例は、ステマがいかに企業にとって危険であるかを示しています。


企業がステマを避けるための
具体的対策

企業がステマを避け、消費者に誠実なマーケティングを行うためには、以下のような具体的な対策が必要です。

明確な広告表示を行う

SNSやインフルエンサーを通じて商品を宣伝する際は、「PR」「広告」といった表記を明確に行い、消費者が広告であることを一目で理解できるようにします。

従業員やマーケティング担当者への教育

倫理的なマーケティング手法を徹底するため、定期的に従業員やマーケティング担当者への研修を行い、ステマを避けるための最新法規制や社内ガイドラインの遵守を徹底します。

透明な顧客コミュニケーションの推進

消費者に対しては、誠実で透明なコミュニケーションを行い、信頼を築くことが重要です。
製品やサービスのレビューや評価も、正確かつ公平な情報提供に努めることが重要です。

インフルエンサーとの透明な関係構築

インフルエンサーやマーケティングパートナーと契約を結ぶ際には、必ず広告としての情報開示を徹底し、消費者に誤解を与えないようにします。

法規制の最新情報を常に確認

法規制は頻繁に変更されるため、最新の規制情報を把握し、必要に応じて消費者庁や法律専門家へ相談することも有効です。


ステルスマーケティングは、消費者に広告の意図を隠すため、信頼を損ねる危険な手法です。
今回の大正製薬の事件をはじめとした様々な事例は、企業が誠実で透明なマーケティングを行う重要性を示しています。
企業が消費者との信頼関係を築くためには、広告を正直に表記し、情報の透明性を確保することが不可欠です。
また、消費者側も、SNS上の情報を批判的に精査する意識を持つことが、健全な消費活動に繋がると考えます。


参考記事
・https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2411/13/news187.html
・https://liskul.com/wm_st6-5140