アメリカにおけるTikTokの動向が再び大きな注目を集めています。
2025年1月19日に施行された「TikTok禁止法」に伴うサービス停止が、トランプ次期大統領の介入でわずか1日足らずで再開されました。
この一連の流れは、マーケターとしてTikTokの動向を常に把握しておくことの重要性を表していると思います。
そこで今回は、アメリカで起こっているTikTok規制の流れを振り返りながら、マーケターとしてどのように捉え、対策を講じるべきかを整理していきたいと思います。
TikTokの誕生とアメリカ進出
TikTokは2016年、中国でリリースされた「Douyin(抖音)」に起源を持ち、2017年に国際版「TikTok」として世界展開を開始しました。
アメリカ市場においては、同年にByteDanceがアメリカ発のショート動画アプリ「musical.ly」を買収・統合することで急速にユーザー基盤を拡大しました。
- musical.ly統合効果
若年層を中心に人気を博していたmusical.lyの既存コミュニティを取り込むことで、TikTokはアメリカ国内にて一躍注目度を高めました。
急成長とユーザー層
爆発的な利用者数
TikTokはリップシンク動画やダンス動画などで若年層、とりわけZ世代やミレニアル世代を中心に爆発的に普及しました。
2023年10月時点のデータによれば、アメリカ国内の利用者数は約1.7億人に達し、SNSとしてトップクラスの利用規模を誇っています。
高いエンゲージメントを生む機能
- デュエット機能
他のユーザーと画面を分割してコラボ動画を作成できる「デュエット」は、クリエイター同士やファンとインフルエンサーの交流を活性化させています。 - ハッシュタグチャレンジ
楽曲や特定のテーマに合わせてユーザーが一斉に動画を投稿する仕組みは、バイラル拡散力が高く、企業によるキャンペーンなどにも活用されています。
※バイラル拡散力・・・製品やサービスが消費者間で口コミによって広まること
アメリカでの規制と禁止の背景
国家安全保障上の懸念
アメリカ政府はTikTokの運営母体であるByteDanceが中国企業である点を問題視し、中国の法律上「企業は政府の要請に応じてデータを提供しなければならない」可能性があると主張しました。
これがアメリカ国内のユーザーデータの安全保障上のリスクとして指摘されています。
トランプ政権下での動向
2020年、当時のトランプ大統領がTikTokを国家安全保障上の脅威として名指しし、アメリカ国内での使用禁止方針を示したことを機に、TikTokを巡る規制は一気に注目を集めました。
その後、連邦裁判所の差し止め命令や政権交代などの影響で即時の禁止は回避されましたが、TikTokは引き続き厳しい監視下に置かれます。
「TikTok禁止法」の成立
2024年4月、アメリカ議会は「敵対する外国の勢力が管理するアプリケーションから米国人を保護する法律」(通称「TikTok禁止法」)を可決しました。
これはByteDanceに対しアメリカ事業の売却もしくはサービス停止を求めるもので、応じない場合は2025年1月19日からアメリカ国内での利用禁止が実施されると定められました。
2025年1月19日:禁止措置と
“一時停止”からの再開
アメリカ国内でのサービス一時停止
TikTokは2025年1月19日、新法の施行に合わせる形で、アメリカ国内でのサービスを一時停止しました。
アプリストアからもTikTokが削除され、新規ダウンロードやアップデートが不可能となるなど、約1.7億人とされるアメリカ国内ユーザーや企業に多大な影響を及ぼしたそうです。
トランプ次期大統領の対応と即時再開
ところが同日のうちに、トランプ次期大統領(2025年就任予定)が「20日に大統領令を出し、新法の施行を90日間延期する」方針を自身のSNSで表明。
これを受け、停止からわずか1日足らずの2025年1月19日中にTikTokはアメリカ国内でのサービスを再開しました。
トランプ氏の声明
- 施行期限の延長 90日間施行を先送りにすることで、ByteDanceとアメリカ政府側が引き続き交渉を行う猶予を与えると示唆しています。
- TikTokの50%米国所有権の意向 TikTokの米国事業については、「米国が50%の所有権を持つことを望む」との声明も投稿され、具体的な形としてアメリカ企業や投資家との合弁事業化を目指す方針が示されました。
サービス再開時のTikTok側コメント
TikTokは同日、アプリ上で「トランプ氏の尽力のおかげで米国内でのサービスが復旧した」と利用者に向けて案内しました。
運営会社ByteDanceが新法の施行を回避しない限り、状況は再び変化し得るため、当面は暫定的なサービス復旧だと言われています。
マーケター視点で見る
TikTokの価値と課題
ソーシャルコマースと高い拡散力
TikTokはショート動画の訴求力を最大化しており、商品やサービスをバイラル化させる力が強いと言われています。
2024年には広告収益が120億ドルに達するとの予測もあるなど、ビジネスツールとしての地位を確固たるものにしてきました。
インフルエンサー活用による
相乗効果
Z世代の支持を集めるインフルエンサーやクリエイターと連携することで、企業アカウントが短期間で急拡大する事例が多く報告されています。
特に「ハッシュタグチャレンジ」や「デュエット」などの機能は、参加型で拡散しやすいのが特徴です。
不透明な規制リスク
一方で、今回の”突然の禁止”と”即時再開”に見られるように、政治情勢に大きく左右される不安定さが拭えません。
マーケターはTikTok単体のプラットフォームに依存するのではなく、Instagram ReelsやYouTube Shorts、または)など複数チャネルを併用する「マルチプラットフォーム戦略」が欠かせない状況です。
データ保護とブランドイメージ
ユーザーデータの取り扱いと国家間の政治リスクが絡み合うTikTokの問題は、ブランドイメージや消費者の信頼感にも影響する可能性があります。
企業としては、「利用者のプライバシーをどう守るか」「コンプライアンスをどう遵守するか」を明確にし、透明性の高いコミュニケーションを行うことが重要だと言われています。
これからの展望と
マーケターが押さえておきたいこと
- 法規制の最新動向を常にウォッチ
90日間の施行延期が決定されても、再度TikTokが停止に追い込まれる可能性が排除されていません。
米政府とByteDance間の交渉状況を注視しながら、慎重にマーケティング施策を展開することが必要だと思われます。 - マルチプラットフォーム戦略でリスク分散
TikTokの強みは短期間でバイラルを生む拡散力にある一方、政治リスクが顕在化しています。
Instagram ReelsやYouTube Shortsを含め、ショート動画マーケティングを複数プラットフォームで並行展開することで、急なサービス停止などに備える必要があると言われています。 - 合弁事業化の行方に注目
TikTokが米国企業や投資家と合弁事業を設立し、米国でのデータ管理と所有権の一部を米国側に移管できれば、長期的なサービス継続が現実味を帯びると言われています。
トランプ氏の要請やイーロン・マスク氏の動向など、主要プレイヤーの発言から目が離せません。 - インフルエンサーとの連携強化
サービスが継続する限り、TikTokのインフルエンサー市場には依然として高い価値があります。
話題性を活かし、適切なインフルエンサー選定とクリエイティブ施策で差別化を図るチャンスだと言われています。
TikTokは2016年の誕生から急速にアメリカ市場を席巻し、2025年1月19日の「TikTok禁止法」施行に伴い一時サービス停止となりました。
しかし、トランプ次期大統領による施行延期の表明を受け、わずか1日足らずで米国サービスが再開されるという異例の展開を見せています。
今後の焦点は、TikTokが米国とどのようにデータ所有権を調整し、安定したサービス運営を維持するか、そしてマーケターがこの不透明な状況にどう対応し、TikTokの強力な拡散力を最大限活用するかにかかっています。
いずれにせよ、ショート動画市場の伸びは続いており、TikTokは依然として無視できないプラットフォームです。
最新の規制動向を注視しつつ、代替プラットフォームとの併用やデータ保護を考慮した戦略を構築することが、今後のマーケティング成功の鍵となると考えます。
参考記事
・https://www.yomiuri.co.jp/economy/20250120-OYT1T50015/
・https://sns-best.jp/tictok/